この章では、大逆事件が語られる。
幸徳秋水らの死刑判決と東京監獄での最期が、
主人公たる石川啄木の関心と日常に合わせ、
落ち着いた文章で語られる。
啄木は、幸徳秋水らの獄中からの手紙を、
「明星」の同人でもあった弁護士から
提供をうけて読みふける。
そのころ啄木はあいかわらず質に出入りし、
事件の記録整理に没頭していた。
そのころ私はあいかわらず会社に通い、
時折この連載小説を読んでいた。
1997年10月8日(日誌より)
アキ・カウリスマキ監督特集2週目の下高井戸シネマへまた行った。「マッチ工場の少女」。この映画館はマンションのワンフロアにある。上に住めたら楽しい。ところで昨日ホールに入ると座席のいくつかに青いシートが被せてある。なんでも上の部屋から水漏れがあったとか。住まいといえば「高橋源一郎の家」が設計されるようだ。高橋源一郎といえば、群像11月号の「日本文学盛衰記」を読んだ。きょうあなたの会社で夕刻「ちょっと図書館へ行ってきます」と言って1時間ほど帰ってこなかった社員がいたら、それが僕だ。わはははは。都市の匿名性。遊戯。そうして夜が来て、ニュースステーションとニュース23とで初めて世界を感じる僕とはいったい何だ。
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啄木は、秋水らの手紙を
漱石と鴎外に見せようと思いたつ。
「夏目先生、森先生、彼らの言葉をお聞きください。」
「彼らは間違っていたのですか? それとも・・・・・」
と問いかける。