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高橋源一郎『日本文学盛衰史』
読書しつつ感想しつつ(5)
 普請中
-----ネタバレあり。注意。

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若い詩人たちの肖像・続


伊良子・・・・?
迷わず『新修国語総覧』を見る。

「新体詩」から「浪漫詩」に矢印が引かれている。
その「浪漫詩」に分類される雑誌『文庫』のところに、
河井酔茗、伊良子清白、横瀬夜雨の名がある。
おお、この章に登場の3人だ。

しかも、またもや全員が一発変換。
驚きまっせ、じっさい。
(なお私が使っている変換システムは、
 ATOKではなくEGブリッジでした)

少し時代を下るとどうなんだろう、
一発変換のぐあいは。

武者小路実篤

出た!おめでたい。

芥川龍之介 谷崎潤一郎 川端康成

まあ当然だろう。

坂口安吾 太宰治

ちょっとマイナーになると

小林多喜二 梶井基次郎 久米正雄

性と名の続きぐあいでAIが判断するようだ。

ためしに

高橋源一郎

これは私が学習させたせいだ。

伊良子清白の人物像が鮮やかで、
今そこにいる人のように、親しみを覚えてしまう。
詩を書くかたわら、サラリーマン仕事の保険勧誘に励み、
それでも詩人かとなじられる。
「歌舞伎町で朝まで飲んでくだをまいていなければ
 詩人になれないのですか」と愚痴る。
唯一の趣味は、鉱石ラジオ。

しかし、この鉱石ラジオを詩人の魂に喩えつつ
めぐる生涯が語られていく。
部屋にひとり、鉱石ラジオを組み立て、耳を澄ます清白。
その静謐な日々は、まるで短編小説のようで、いい感じの描写だ。

清白は、詩人とはその鉱石のようなものではないかと思っていた。それは結局のところ単なる石ころにすぎない。宝石の輝きを持たず、鉄や銅のように鋳造されて人々の役に立つわけでもない。その石の働きはただ目に見えぬ電波に反応するだけで、しかもそれはほとんど聞き取れぬほどの微弱な反応である。だが、その鉱石だけが音を拾うのだ。清白は、詩人たちの話を聞くより、彼らの書く詩を読むより、鉱石の拾う音に耳をかたむける方を好んだ。

やがて、鉱石は雑音しか受信しなくなり、
清白の死とともに、土に還る。

詩人とは何か。
当時の一般イメージは以下のごとくだった。

詩人は破格の存在でなければならなかった。この世界に在ることの苦しみや哀しみを他のどんな種類の人間より鋭く感じなければならなかった。世俗的な出来事からは超越して、溢れる感受性を持たねばならなかった。そして、詩人は一目で詩人とわかるようでなければならなかった。

そういう中で、
「他のほとんどの詩人たちとは違い、
 詩についての無益な議論や
 酒を飲んでの大言壮語を好まなかった」伊良子清白は、
むしろ「エセ詩人」呼ばわりされねばならなかった。

その清白の詩は、昭和四年にもなって、日夏耿之介に評価されたという。

「清白の詩的位相は極めて不遇であつた。なぜなら、清白の詩は、青春熱狂の対象となつたわけではなく、詩的好誼を持ちやすいものでもなかつたからである。、その詩の特徴は、次なる時代に深い影響を与える風の預言者的体質と超時代的意義にある」

そして高橋源一郎は、こう書く。

島崎藤村は近代文学が産んだ最大の詩人だったが、伊良子清白は現代文学は産んだ最初の詩人だった。

改めて問おう。

1詩人とはいったい何ですか。
2近代詩人と現代詩人、その違いは何ですか?

本文に則して、それぞれ五十字程度でまとめなさい。(宿題)

それにしても、
保険の仕事や鉱石ラジオ趣味は、実話なんだろうか。
調べてみたくなる。
伊良子清白の詩も、もちろん読んでみたくなるが、
その人物、その生活に、どんな資料があり、どう書かれているのか。
どこからが高橋源一郎の想像なのか。
そんなことが気になってくる。

さて、章の最後に、時代は少し戻る。
伊良子清白に、河井酔茗、横瀬夜雨。
まだ若きこの三名が出会い、
詩作を通じて交流を深めている。

夜雨は、伊良子清白とは全然違うタイプの詩人だ。
「他人に同情を要求する・・・スタイル」
「通俗的でセンチメンタルな人生観を
 詩の形にして告白することに生命をかけていた」
その人物造形は痛烈で、
ハイテクでメカニックな車椅子で疾走し、
ホーキングの異名を取ったりする。

その夜雨に、電子メールが届いた。
結婚したいという女性読者だ。
次章に続く騒動が、ここに始まるを告げる。

感想してるのか、要約してるのか、ちょっとわからなくなりつつ。


Junky
2001.6.7


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