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高橋源一郎『日本文学盛衰史』
読書しつつ感想しつつ(39)
 普請中
-----ネタバレあり。注意。

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歴史其儘と歴史離れ

たしかに、
近ごろの子供に与えられる名前を、こうして改めて眺めるとき、
あらわになってくるものを、
歴史意識の忘却、と呼んでいいかもしれない。
同じことが、育児書の変化にも当てはまるとみえる。

産科の廊下で、為すすべなく座る男の隣に、
森鴎外が渋い表情で現れる。

無政府主義によって、
あるいは戦後の自由主義によって、
あるいは「失われた10年」とも言われる近年において、
確実に失われてしまったとおぼしきもの。

「なにかそらおそろしいものを感じませんか」
「公」という文字の化身であるかのような鴎外は、嘆く。

わたしはといえば、
赤ん坊の大きな泣き声を前に、もはや、
「策の出すべきなく、瞠目して過ぐるのみである。」

さてさて、
我々一人ひとりは、具体的にどんな将来を選択したらいいのだろう。
生まれてくる子供に、具体的にどんな名前を付けたらいいのだろう。
(源一郎とか、純一郎とか?)
作家は具体的にどんな小説を書き、
具体的にどんなタイトルを付けたらいいのだろう。
登場人物には具体的にどんな名前を付けたらいいのだろう。
読者は具体的にどんな感想を持ったらいいのだろう。

具体的なものは、常にどこか、まぬけだ。

しかし、生まれてしまった以上、
国家も子供も小説も、けっして抽象的な存在ではいられない。
歴史についても、
具体的な各学校においては、具体的な一冊の教科書を、必ず選ばねばならない。

この章で生まれた赤ん坊には、具体的にどんな名前が付くのですか?


Junky
2001.6.20


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