高橋源一郎『日本文学盛衰史』 読書しつつ感想しつつ(32) -----ネタバレあり。注意。 WHO IS K ? 4 ここではまたエッセイ風の語り口が戻ってくる。
加藤典洋氏が教えてくれた
かつて、ひとりの「私」がいた。「私」はある時、Kを裏切った。その裏切りは「K」を苦しめた。その苦しみに終りはなかった。なぜなら、「私」はKでもあったからだ。では、それはいったい「なに」をめぐる裏切りだったろう。政治的信条をめぐる裏切りだったろうか。それとも人間関係をめぐる裏切りだったろうか。それならば、時が解決できるかもしれなかった。だが、これはなにをもってしても解決できぬ裏切りであった。「私」と、それにそっくりのもうひとりの「私」にとって、すべてであったもの。すべてを犠牲にしても、優先させねばならなかったもの。そして、同時に、まったく秘密のうちに隠し通すことができるもの。もし、それが「書く」ことであったら? 「書く」ことに関する裏切りであったとするなら? その謝罪と鎮魂はなにによってなしうるだろう。いうまでもない、それもまた、「私」は克明に『こころ』のうちに書いているではないか。「先生」は、その「裏切り」をも「遺書」として「書いた」のである。タカハシ探偵の推理はこれで完結 かと思うと、 まだこのあと小説サイドのラストがあり、 犯人と被害者の二人?が、最後の会見をする。 ◆
ミステリーは終わった。
2001.6.17 |