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高橋源一郎『日本文学盛衰史』
読書しつつ感想しつつ(28)
 普請中
-----ネタバレあり。注意。

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本当はもっと怖い『半日』

『日本文学盛衰史』における森鴎外は、これまで、
啄木から眺められた第三者としてのみ登場していたと思うが、
この幕間的な挿話では、一時的に弾ける。
しかしまだ、
時空の捩れに「こめかみをおさえつつ」翻弄される側であり、
せいぜいツッコミ役だ。
大蔵大臣ヨーダほどキャラ立ちはしていない。
オーガイ・モリが、偉大なボケ役として喝采をあびるのは、
「官能小説家」まで待たねばならない。

鴎外は、テレビを前にした妻と母と自身の会話について、
嘆く。

「・・・・森さんのところは、家族の間で会話が絶えない理想の家だと聞いてたんだけどなあ」
「確かに。表面上はそうさ。わたしがいる。妻がいる。母がいる。それぞれが順番にしゃべっている。意味は通じている! 脈絡もある! 意志が通じているような気さえする! どうなっているんだ! ・・・・」
(略)
「あんたのいうことをまとめるとだね。複数の人間が同じ場所にいて、あることについて連続して発言しているわけだ。おまけにみんな意味がある。ちがう?」
「いや」
「しかも、その連続した発言が一つの繋がりになっていて、意志の疎通もある。どうやら、その中には笑いやジョークも混じっている、と。ちがう?」 「ちがわない」
「だったら、そういうのを会話っていうんだよ」

そういうのを小説っていうんじゃないか、
という気がしたりもする。

「ぼくの考えではね、あんたは、なにかものすごいものを期待してるんじゃないかな。会話とか家族とか、そういうのに弱いんじゃないの?」

やっぱりまるで小説への期待だ。


Junky
2001.6.17


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