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高橋源一郎『日本文学盛衰史』
読書しつつ感想しつつ(17)
 普請中
-----ネタバレあり。注意。

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我々はどこから来たのか、そして、どこへ行くのか 2


『日本文学盛衰史』が新刊され、
「露骨なる描写」がどうのこうのと、
私が感想している最中。

「あのこと」が起こった。

新刊ではなく震撼という語句を、
この場合だけは使用してさしつかえないと、
誰もが思うような。

さっきテレビをつけたら、
「あのこと」を想定した
いささか過激な訓練も行われていた。

『破戒』一色に塗りこめられた時代にあって、花袋は、藤村の作品が巧妙に避けているものを見つけていた。花袋の考えでは、それは「性」であった。それは明治文学が発見した「内面」のもう一つの隠れ家であった。藤村は「内面」をついに書き表すことに成功したが、もう一つ、そこに部屋があることに気づいていなかった。

その花袋が、
現代からすべりこんできたAVに、驚愕する。
人前で本当の性交が行われること。
本当のGが行われること。
どこにでもいるふつうの、
責任能力の問える女であること。

花袋は心の底から「震撼」させられる。

この心情は、
AV監督を体験した高橋源一郎の実感だったかもしれない。
参考までにこちらのページ

AV制作を決意した花袋の前に、
助っ人として現れるのは、
平野勝之ではなくピンと名乗る若い監督。

しかしいざ撮影現場で、
『蒲団』が思い切りAV化されていくのを見ると、
花袋は我慢ができなくなる。
自ら苦悩した尊い体験と創作が、
あまりに軽々しく蹂躙されていると感じたのだろうか。

「きみ悪ふざけにも程がある。確かに、わたしは悩める作家のシーンを撮るようにいったが、こんな馬鹿馬鹿しいことをやれとはいってない」

しかし、ピンは逆に『蒲団』を厳しく批評する。

「わたしが飾ったり、作ったりしているというのかね」
「そうですねえ、先生は主観的には、露骨な描写をやろうとなさってるんでしょうが、ぼくたちから見ると、カッコつけすぎてますね」

(略)

「・・・・先生は『露骨なる描写』をやりたいとおっしゃった。先生がほんとにやりたかったのは『露骨なる描写ですか、それとも文学ですか」
「だから『露骨なる描写』に基づいた文学だよ」
「ということは、文学で『露骨なる描写』ができるとお考えなのですか?」

では、2001年、
梅雨時の鬱陶しいこの列島で
誰もが巧妙に避けてしまいたい
「露骨なる感想」があるとしたら、
それは何だろう。

やはり「あのこと」だろうか。

「あのこと」を露骨に描写したゲームが
ネット上で出回ったという。

そんなニュースを聞くと、
花袋の『蒲団』の「露骨」など、
過激どころか、ほのぼしてしまう。

高橋源一郎が書ききった
このAV文学の「露骨」ですら
慣れればさほど顰蹙でもない。

我々はどこから来たのか。
前章で、私はそれが少しわかったような気がした。
だがそれなら、
我々はどこへ行くのか。


Junky
2001.6.13


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