飯田隆 分析哲学 ニュース23 ウィトゲンシュタイン
数学/論理/言語

(1)

きのう本命の高校を受験したが、国語・数学・英語の得点3つを自己採点して合計したところ「180」だった。これは偶然か必然か。きょう机の上にあった三角定規の角度3つを自己測定して合計したところ「180」だった。これは偶然か必然か。

ついでながら、国語・数学・英語どれも200点満点だったりしたら、ちょっとつらいね。

(2)

「日本の総理はゴルフ好きの大男である」が正しいとしたら、その理由は何か。「チョコレートは現金である」が正しいとしたら、その理由は何か。それらは、「日本の総理は日本の総理である」「チョコレートはチョコレートである」が正しい理由とは全く別なのか。

だいたい、「チョコレート、は、チョコレート、である」ということは永遠普遍に正しいと胸を張りたくなるが、その自信はいったいどこからくるのだろう。森総理のあの自信がどこからくるのかも知りたい。

では最後に、「日本の大統領はゴルフ好きの大男である」というなら、それは、正しいのか、正しくないのか、どちらでもないのか。

(3)

連日夜になるとニュース23の「幸福論」が脇から聞こえてくる。「あなたは幸福ですか」Yes or No ?

「あなたはあなたである」「幸福は幸福である」ということなら、まあ正しいのだろう。森総理がナイキのハットを被ろうが、政権がひっくり返ろうが、ミールがグリーンビルと衝突しようが、太陽が西から上ろうが、「あなたはあなたである」という命題は絶対正しいということになっている。しかし「あなたは幸福である」という命題は、少なくともいろいろ調べたり考えたりしてみないことには、正しいかどうかがわからないみたいだ。じゃあどういう調査思考をすれば、それがはっきりするのか。あるいは、そもそも「あなたは幸福である」が正しいか正しくないかを決めることは、できるのかできないのか。

三角形の内角の和は180度である、ということも絶対正しいということになっている。さてさて、内角の和は180度だが、内閣の和は180度変わった。非ユーグリッド内閣。

(4)

ウィトゲンシュタインは『論理哲学論考』の中で、こう書いている。「哲学的事柄についてこれまで書かれてきた命題や問いの大部分は、偽なのではなく、無意味なのである。したがって、こうした種類の問いに対しては、答えることはできず、ただ、その無意味であることを明らかにすることしかできない。哲学者の問いや命題の多くは、われわれが自身の言語の論理を理解していないことから生じる」

「俺はお前より幸せだよ」とか「人を殺すことはどうしていけないの」といった議論に、私は口出しなどしたくない。それどころか、そんな議論は無意味だから、もういい加減にやめてほしい。ただ、どうしてそれが無意味なのかについて、私はどうしても口出しせずにはいられない。---ウィトゲンシュタインはだいたいこんな気持ちだったのだろう。ただし、<こういう無意味な議論を延々と繰り返してしまうのは、我々が言葉使いについてよく解っていないことにこそ原因があるのだ>という洞察をしている点を見逃してはいけない。べつに若者風のつっぱりでハスに構えているのではない。ポイントは「言語の論理」「言語の限界」というところにある。

「そもそも語りうることは、明瞭に語られうる。そして、話しえないことについては、沈黙すべきである」(同書)

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ややこしいことを長々と書いてしまいました。近ごろ、『言語哲学大全』(飯田隆・全三巻とか)や、『クワイン』(丹治信春・講談社現代思想の冒険者たちシリーズ)といった本を読んだりしたからです。上に書いたことに対して、ああなんだか僕もそんなことが気になるぞという方は、図書館で探してみてはどうでしょう。いや、そういう方はとっくに読んでいますか。

(7)

それにしても『言語哲学大全』は、ラッセル、ウィトゲンシュタイン、カルナップ、クワインといった分析哲学、言語哲学というジャンルに分類される人たち、つまり「言語の論理」を考え抜く人たちのエッセンスを、実にうまくまとめてある。ページをめくるごとに、言語哲学を濃縮した原液が、のどに焼け付くような感じがする。どんどん水で還元し薄めて読むべき本かもしれない。その際、薄めるには純水でないといけないのだろうか。ついコーラとかオロナミンCで割って飲みやすくしたくなるが、どうだろう。

じゃ、クワインやウィトゲンシュタイン自身の本ならば、いわば天然果汁100%絞りたてか。と思いきや、『論理哲学論考』などは、そもそもこの世で最も濃縮度の高い著書ともいわれるのであった。まあ「天然」という形容だけは、この人にふさわしいような気もするが。

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Junky
2001.2.23

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