追想 '99夏
旅先でことさら
思い当たらなく
てもいいことに
思い当たる旅先
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9.20 第40日 チョルポンアタ なにごとか為さぬかぎりは
朝から雲が多い。部屋にいても湖を見に行っても、どこか半端でもどかしい。まあこういう寂しげな気分を味わうのもまた、この場所に、この旅行にふさわしいかもしれないが。さてもう書くことがなくなった。何かしない限りは。
旅で意外に重宝するもの。それは地図帳。私は帝国書院標準高等社会科地図というのをいつも携えて行く。地球全体の中で自分が今どういう位置にいるのかを知るのがまず面白い。出会った外国人に地図を見せて互いの祖国を確認すれば親近感が増したりもする。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ---ページを捲っていくと実にたくさんの国々があり、かつ素性すら知らない所があまりに多いことを改めて感じる。世界の気候や地形を示す地図、さらには言語・民族・宗教の分布図など、何度見ても興味が尽きない。各国の人口や経済の統計も整理されている。時を忘れて読み耽ってしまうのが常だ。次に向かう国やルートを迷っているときの決め手にすらなる。この日もベランダでいつまでも広げていた。
郵便局とバザールに行く。電熱湯沸かし器を買う。それ以外は、食事して散歩してぼんやりして湖を歩いてベランダの椅子に座ってFMラジオを聞いて、一日が過ぎた。ダリア、コスモス、リス、黒い鳥、バラ、水鳥、手こぎの舟、夕暮れ、砂浜、魚の薫製。
退屈なら遠い昔からしている。一生ここにいてもよい。
9.21 第41日 チョルポンアタ 牛もなびく湖のほとり
きょうは朝からよい天気。午前中も湖に行き、波打ち際を遠くまで歩いた。牛の群れが岸に来ていて、なかなかシュールな光景だった。レストランからホテルまでの帰り路。林檎の樹がたくさんあり小さいが赤い実が無数についている。どうやら採ってもいいらしく、採ってみたりする。しかし実際に手を伸ばしてみると、なかなか届かず四苦八苦。ベンチがあるので座ってみたり。コスモスが咲いていたり。樹にはリスがいて、白黒ツートンの鳥がいて、いつまで観察していても飽きない。
午後は湖に出て、ボートを借り、ビーチのずっと外れに付き出している岬の近くまで漕いでいく。本当に透明な水。青い湖面。岬のあたりはススキに似た背の高い草が繁っていて、ビーチとまた違ってわびしさを醸す風情。沖から眺められる湖岸や山の風景も良い。滞在しているホテルが品よくたたずんでいた。
泳いでもみた。真昼ではないのでちょっと寒かった。
台湾で大地震があり、1500人以上死んだという。
9.22 第42日 チョルポンアタ また泳ぐ
きょうはこれまでで一番いい天気。午後からはまたボートを借りて、昨日行った岬の、さらに向こう側が見えるところまで。再び泳ぐ。こういうところでおいしいコーヒーがあればさらにうれしい。しかしアルマトゥで買ったコーヒー豆は豆のまま。なすすべなく持ち歩いていただけで。水筒(メタル製)の底でガツガツと粉に近づくまで長時間かけて砕く。先日手にいれた電熱器でお湯を沸かしドリップして飲んでみると・・・。
夕刻、長距離バスが走るメインの道路を集落から離れる方向に歩いて行った。並木の間から湖の眺められる所があって、テーブルを並べた露店カフェになっている。シャシリクと紅茶。夏の間だけビシュケクからやってきて営業するのだという。ゲル(遊牧民のテント)があるのは寝泊まり用か。遊牧でなく遊商生活。
放牧の草地に、きょうは馬がかたまっていた。すぐそばを通った。大きな馬で毛並みのつやがよくわかった。
夕食後、月が美しいので、またもや湖に出た。月の光が水面のさざ波に反射していた。
忘れがたく、されどまた訪れるにはあまりに遠く、鮮やかな夢のごとし。そういう場所がありますか。
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