千年期・保坂和志特集
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読んだこと、感じたこと
-- 分析や評価でなく --


この人はいつも、自分がどう考えているかだけを書いている。他人のことは書かない。世の中で今みんなが、他人がどう何を考えているのかは気にしない。まして他の誰かや他の何かの分析・評価はしない。自分の体験と知識、そこから派生したことしか書かないように見える。「<私>という演算」を読んで特にそう思った。自分の身の回りで気にとまったさりげないことに深い謎を感じ、いつまでもそれを見つめ続けている。それだけのような文章が、文学や哲学らしくなり、広がって、ここにも一人、前評判もあまり知らず古本屋の100円で手に入れた「プレーンソング」を契機に、なぜか大いに共感する者が出てくる。そういうことも起こる。それは「自分がいちばん考えたいことは自分をめぐっているに決まっているじゃないか」と堂々と思っていいのだという確信だった。自分のことを考えるだけでも時間がいくらあっても足りないのに、よそのことになんか構っていられるか。そういうことにそろそろ気づいてもいい。

「ただ思ったことを書けばいいのだ」という言い方はある。しかしそれよりも、ここでは、「思ったことを本当に書けるなら書いて見ろ」「やったことを本当に書けるなら書いてみろ」という課題が発見されたと言うべきかもしれない。

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続く


Junky
1999.11.12

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