コッペ川と行く福井警察署・取調室ツアー


新年早々なんの因果か、こんなおぞましい体験を書き留めねばならぬとは。やはり初詣の賽銭をけちったのが悪かったな。みなさま聞いてほしい。私このたび、こともあろうに、痴漢に間違えられ、警察の取り調べを受けるハメになってしまったのだ。

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こうなったら、すべてをぶちまけておく。日時は1月6日の昼下がり。帰省中だった福井市の駅前周辺での話だ。まずは、その時の私の行動を地図とともに示しておく。

 


私は「南通り」をJR福井駅に向かって一人で歩いていた。これからJRに乗って友人の家を訪ねる予定だった。でもちょうど小腹が空いてきた。この辺で遅い昼食でも取っておくか。そう思った私は、地図に示したように「南通り」「電車通り」「ガレリア通り」「北の庄通り」と移動しながら食事どころを探し、けっきょく「南通り」で最初に見かけていた蕎麦屋(地図参照)に入った。早食いで定食をかきこんだあとは、すぐまたJR福井駅に向かう。途中、携帯で友人に電話をかけ「今から行く」と伝えた。

そんな急ぎ足の私に「ちょっと」と声が掛かった。地図上の「A地点」だ。振り向くと若い男性2人と女性1人。「なんかおぼえあるやろ」と男性がにらむ。「え?」 さて困った、インネン付けられてるのか。そういえば男性2人はチーマー風にも見える。しばらく要領を得なかったが、女性が「触られた」と呟くのが聞こえて、ははあそういうことか、こりゃますます困ったと思った。列車の時刻も迫っている。女性は「ニコニコ」というパチンコ店辺りでそういう目にあったという。「ニコニコ」は「ガレリア通り」にあるらしい。それ以上は言わないが聞きたくもない。私は女性に近づいて「よく見てください。私じゃないでしょう」と話しかけた。私がおどおどしてはいないせいだろう、男性のほうも「どうや、間違いないんか」と女性に尋ねている。ところが、女性はやはり私だというではないか!。そりゃないよ。それを聞いて男性は「警察行こう」と言いだした。はあ?。でもまあしょうがないか。そう言うからには、おふざけでもゆすりでもないのだろう。だったらこっちも、そこではっきり自分の行動を告げれば、まあ話は済むだろう。そう思って私は、同意をし、一緒に福井駅前の交番を訪ねることにした。

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交番には制服のお巡りさんが3、4人くらいいただろうか。すぐに女性を奥の部屋に入れ、事情を聞き始めた。私は狭い階段を上がったところにある、なんか狭っくるしいスペースで、別のお巡りさん1人と対面し、上に述べた行動を細かく伝えた。本籍住所氏名年齢職業は当然聞かれたので、すべて正直に答えた。ご丁寧に運転免許証も見せてやった。はじめに断っておくが、私は基本的には警察に協力することにヤブサカではない。もちろんふざけた態度が過ぎれば怒るし、「いやだ」「なぜだ」とごねることもある。ただ今回それをやると災厄の度合いが倍増しそうな状況だったので、とても従順だった。担当のお巡りさんも、それなりに丁寧な接し方だった。

しかし話は済まなかったのだ。どうやら、女性が犯行にあった時刻と、私がそこを通った時刻とが近いらしい。さてそうなると、女性が「ガレリア通り」で被害にあったことは、私は交番に来る前から知っていたのだから、私が「ガレリア通り」を通ったことを女性や警察に隠しておけば、つまり「南通り」しか通らなかったと言えば、ややこしくならなかったのかもしれない。しかし私は、嘘をつけばそれは顔に出るだろうし、後で訂正すると完全に疑われると考えた。だから今回は交番に入る段階から「とにかくすべて正直に言う」という方針だったのだ。

そしてお巡りは、たしかこんなふうに言った。「福井警察署まで行ってもらって、詳しく調べてもらうから」と。「ちょっと待ってください。それは命令ですか。それとも私へのお願いですか」……と食い下がりたいのはやまやまだったが、例によって黙る。ぶつぶつ言えば結局不利だし、女性はやはり私の仕業と思っているようなので、大迷惑ではあるけれど、曖昧にして去るのもかわいそうだ。ただし厳密に言うと、このお巡りは、私に対して任意同行であることを告げないまま警察署への連行と取り調べを事実上強要したわけだ。たぶん違法だ。でもこのお巡りは、お屠蘇気分のせいで一瞬だけそれを忘れたんだな。だからまあ許してやるよ。その恨みは今、ここで「さん」付けをやめることで晴らしたし。しかし本当のことを言うと、このお巡りがお屠蘇気分だったというのは、私の錯覚だ。なぜなら世間は6日からもう仕事だったのだから。正月気分は私だけだった。いや、そんな気分だったわけもないのだが。

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さて、かなり無駄に待たされたあと、福井署の刑事2人がセダンの車でやってきた。ドラマや小説では、刑事というとたいてい親父と若造の2人組で登場し、しかもデコボココンビだったり肥満型と痩せ型だったりするが、降りてきたのもまるきり対称的な2人だったので、ワラた。いや笑ったのは今だけど。ところでこの2人、自分の名前と部署を最初から最後まで一度も名乗っていない。まるで役人らしい、いや役人にあるまじき心得だ。だからしょうがないので仮名で呼ぶぞ。親父のほうが「オウヘイ山」、若造のほうは「コッペ川」とでもしておくか。コッペというのは、コッペパンのようにまずいという意味ではなく、糞生意気という意味の福井方言だ。

コッペ川の第一声というのが「あんた、名前は」とかそんな感じだった。ポリ公僕たるコッペ川ときたら、屈辱に耐えつつ捜査への健気な協力を惜しまない、タックスペイヤーにして善良市民たる私に、なんとまあ傲慢そのもののタメ口しかきかないつもりなのだ。この態度はその後も終始一貫。だが私は、もちろん一般社会の良識に従って「****です」と丁寧文体で答えた。ついでながらコッペ川は私より明らかに年下だ。さて、ほどなく私は刑事2人とその車に乗り込むことになるのだが、オウヘイ山の第一声はその時だった。「これほど似たもんは、そうはいないぞ」。被害女性が話した犯人の風体と時刻が、私と私の行動にかなり符合しているという意味だ。だから犯人がお前以外にいるとは考えにくい、というわけだ。これをややドスの効いた方言でぼそっとやられた私は、そうか、そういうつもりかと、腹をくくることにした。あとは福井警察署に着くまでほとんど誰もしゃべらなかった。ちなみに女性もまた別の車で同署に向かったらしいが、私とは会わずじまいになった。

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福井警察署では4階の取り調べ室に連れていかれた。最初はコッペ川と2人きりだ。部屋はドラマなどで見るような造りだが、予想以上に汚く、寒そう。この程度の仕打ちは通例なのかもしれないが、相手の出方を確かめる気もあって、「任意同行で来たつもりですけど、これはちょっとひどいんじゃないですか」と嘆くように言ってみた。するとコッペ川、驚いた様子で、「これ、任同! 取り調べ!」と声を荒げる。すなわち「これは任意同行であるが、ここがその取り調べの場所なのだから、何も問題もない。殺すぞボケカス」という意味のようだ。どうもコッペ川は、丁寧文体が身に付かないだけでなく、助詞や助動詞も知らないらしい。逮捕の場合は鍵のかかる部屋で取り調べるからこの程度では済まないんだ、とも言った。

そうしてコッペ川とオウヘイ山が、それぞれ入れ替わりで私を調べた。他の刑事も出入りしたが、さして話はしなかった。この時の状況や私の心情を振り返れば、次のようになる。

オウヘイ山とコッペ川にすれば、女性が警察まで来たのだし、せっかく自分が調べているのだから、なるべく私がクロであってほしいし、そうなれば手柄にもなると考えるだろう。また、シロの容疑者に失礼な扱いをすることを避ける気持ちよりは、クロの容疑者を逃がすことを避ける気持ちのほうが、ずっと大きいに違いない。さらには、私を警察署まで連れて来たことからみて、私がシロである証明はできていない、つまりクロの疑いは晴れていないのだろう。もちろんクロである証拠があるわけはない(そりゃそうでしょ)。あると言うならそれは誤認か捏造だが、私もそこまで不運ではないだろうし、オウヘイ山とコッペ川も鬼畜ではなかろう。まあ大丈夫と思いたい。ただし、痴漢は物証が残りにくいだろうし、今回はどうやら目撃者がいないようなので、仮にクロであってもシラを切りとおすことが可能だということは、警察も十分承知しているはずだ。はあ〜ややこしい。認知学でいう「心の理論」だね。猿には無理とされている。偉いぞコッペ川。ともあれそんなわけで、私への追及はそう優しくはなるまい。

私としては、こういう場合に警察はどんなやり口でくるんだろう、こうなったからには最後まで見通してやれ、それは大きな経験として生きるだろう、とそんな気持ちが少しあった。だいいち正論としては「疑わしきは罰せず」だ。私は平然としていればいい。ただし日本語の不自由なコッペ川が、そんな高度な概念を理解するとも思えない。だから次善の策として「私の疑いを晴らす」ためにすすんで努力する、というのが現実路線だ。いやそれは、オウヘイ山とコッペ川が税金を使って成し遂げるべき業務なのであり、私がボランティアでやらされることではない(そこを勘違いしてもらっては困る)。とは言うものの、私の疑いが晴れることは、私にとっても良いことなのだから、協力はしてやるよ。それに、女性にとっても、警察が早いとこ私を諦めて本当の犯人探しに出掛けたほうが良いのだから。しかししかし、これらの勇ましい思いは半分程度であり、「ともかくこんな所から早く帰りたい」というのも正直な気持ちだった。だからといって、「やってないっすよ〜、信じてくださいよ〜、そんなことするわけないっしょ〜」と下手に出るばかりなのも、いくらなんでも悔しいではないか。

――とこのように、人間の尊厳と卑屈とが幾重にも錯綜し、かつ胃はキリキリ痛んだのだが、向こうにすればまあ平凡で淡々とした取り調べだったのではないか。私は当初の方針どおり必要なことは隠さず話した。中身は交番で述べたことと同じだ。犯行に直接関係ないような質問は特になかった。しかし結局のところ、女性は私を犯人と思い込んでいるようだし、私は犯人ではないので、事態は進展しない。オウヘイ山とコッペ川の、つまるところ「あんたがやったんやろ」という態度や作戦も、あまり変化しなかった。またこの段階では、犯行の詳しい状況を報せてもらえないでいたので、それも歯痒かった。

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そのあと私は、5階の取り調べ室に移された。やっぱり似たような部屋だ。今度は生活安全課という部署が改めて取り調べを行うということだった。何人かがバタバタと出入りしたが、取り調べの大部分はSという人が行なった。S氏は最後になって名字だけを名乗り、私の担当者であることも告げた。

ここでは写真を撮らされた。私は「それは抵抗があります」と言ったが、私の風体を女性に見せて確かめるためだとか、今日の服装を記録として残すためだとか言われて、しぶしぶ承諾した。立った姿勢で正面・背面・右横・左横と合計4枚、ストロボを使って撮影された。さらに顔写真をもう一回撮影された。これは予想を超えて屈辱的だった。だからちょっと気弱にもなり、訪ねる予定だった友人に携帯で電話した(*これは記憶違い。実際は友人が電話をくれた)。友人には駅前の交番でも連絡していたが、今度はすぐに車で警察署まで来てくれるという。心強かった。それにしても、この写真撮影はあとから考えると納得いかない。断固拒否しようと思わなかった自分もふがいない。任意同行の者への扱いとして正当かどうかを調べてみる必要がある。なんなら、出るところへ出よう! というか、その出るところにまさに出ている最中だったのだから、バカバカしいな。いや、これは冗談ではすまさない。

さて取り調べのほうは、ここに移ってもいっこうにラチがあかない。つまり、女性は私だと思い、私は違うと言う。ただ、犯行の詳しい様子と、女性らが私を疑って声を掛けてきた経緯は、やっと明らかになってきた。私が知りたがるのに応じてS氏が教えてもくれた。聞いた話から判断すれば、次のようなことになる。なお、かなり限られた情報しか得られていないことに留意されたし。

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女性が「ガレリア通り」のパチンコ店「ニコニコ」の前にいた時、後ろから1人の男が近づいてきた。振り向くと、男はさらに近づいて、女性の尻を触り、さらに女性の手首を掴んでその手を男の股間にあてがったという。女性は怖くなったので、男を追いかけたりはしなかった。なお「ガレリア元町」はアーケード街なので完全な戸外に比べてだいぶ暗い。女性はそのあと男の友人2人を電話で呼びだした。この時の携帯電話の記録から、犯行時刻は3時30分ごろと警察は見ている。そして女性と男性2人は犯人を探そうと付近を歩くことにした。すると、犯人に似た男が同じ「ガレリア通り」を歩いているのを見つけた。あとを付けると、その男は蕎麦屋に入った。それが私だったのだ。私が蕎麦屋にいる間3人がどうしていたのかは聞いていない。ともあれ3人はその後、私が蕎麦屋を出てA地点まで来た時に、声を掛けた。

私の行動も改めて記しておく。私は「南通り」→「電車通り」→「ガレリア通り」→「北の庄通り」と食堂を探して歩いたあと、蕎麦屋に入った。おそらく午後3時30分くらいから40分くらいの間だ。なぜわかるかというと、私は友人の家に行くためにJRの時刻表(紙片)を眺めながら歩いていたからだ。「南通り」で携帯電話の時計を見て「3時44分発にもギリギリ間にあうが、食事をして4時12分発に乗ろう」と決めたのを憶えている。また、蕎麦屋では「30分くらいしかないな」と思って急いで食べた。蕎麦屋を出た時点でもう一度携帯を見たら、たしか4時00分あたりだった。「よし急いで行けば12分発の列車は大丈夫だ」と思った。

女性は、私を見つけたとき、風体からさっきの犯人ではないかと思ったらしい。犯人は緑のコートと黒いシャツを着て眼鏡を掛けていたという。私はというと、黄緑系の防寒着と濃紺のシャツで眼鏡も掛けていた。年齢や顔も違っていないと女性は言うらしい。いったいどうなってるんだ。(ということは、犯人はキムタク似? でも「キムタクって呼ぶ奴に、俺側の人間はいない」んだが。――いやこれは冗談)

なんだかミステリー小説を書いている気分になってきた。犯人は意外や意外、記述者だった! ……なんて洒落にならないことを言うのはよそう。だって本当に怪しいじゃないか。まいってしまう。私としては、私が「ガレリア通り」を歩いたのは犯行の10分ほど後だったと考えるしかない。服装や風貌もたまたま似ていたのだ。そんなことがあるものかと言われるかもしれないが、どうしようもない。女性が「ガレリア通り」で痴漢にあった時刻は、私がまだ「南通り」を最初に歩き始めた頃だ。

ちなみに、私が「ガレリア通り」を通った時は、人通りも各店舗のにぎわいもほとんどなかったように思う。誰かとすれ違った憶えもあまりない。3人が私を見つけて跡を追ったというが、それにもまったく気づいていない。また、パチンコ屋があるとの意識もなかった。実をいうと正確な位置も知らないのだ。教えてもらわなかったし確かめにも行っていない。これらはたいして益のない情報か。

ところで、犯行の詳細を示してくれたのは、オウヘイ山だった。つまり、部屋に入ってきたオウヘイ山が、私の目の前に来て、まず自分の手で自分の尻を触ってみせ、次に私の片手をつかんだ。そしてその手を自分の股間にあてがった、のであれば、それはそれでまた犯罪的だが、そこは自分の手を自分の股間にあてがっただけだった。この、オウヘイ山の右手がオウヘイ山の鼠色ズボンの股間にあてがわれるの図は、あまりに鮮明な印象であり、心的外傷になろうかと心配されたのだが、実際には心的苦笑となって残った。このオトボケぶりに免じ、オウヘイ山について口汚く言うのはこれくらいにしておく。コッペ川のほうは、どうもそういう笑いに解消される余地がないので、まだ気は収まらない。

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さて、5階における取り調べの行方だが――。私は写真を撮られたことでやや混乱したものの、取り調べのS氏の態度は徐々に軟化しているように感じた。警察としてこれ以上の追及は諦めたような気配だ。それと同時に私の気持ちもかなり落ち着いてきた。胃の痛みが減じたのでそれがわかった。そのうち実際に、S氏から今後どうするかの話が持ちだされた。それによれば、私の嫌疑は晴れてはいないが、嫌疑が十分でもない。だからきょうは、供述調書を作成しそれに同意したうえで、帰ってもらう。ただし、改めて呼び出されることがないわけではない(その場合の交通費は警察は出さないという)。なお、私が帰れるのは、免許証で身元が確認できたこと、および、私が郷里の肉親の家に泊まっていて、身柄を引き取りに来る家族がいることによるという。もし野宿者や流れ者だった場合には警察に泊まってもらう可能性があった、などと言うのだ。おそらく警察としては「どこの誰なのか」「逃げ隠れしないか」という条件がクリアできないことには、処理に困るし報告するにも具合が悪いのだろう。

そうしてS氏は供述調書を書き始めた。きょう私が話したことをもう一度私に確認しながらボールペンで書き込んでいく。最後に私が読んで母印を押しておしまいだ。コピーをくれと頼んだが「それはできない決まりなので、書いてあることを憶えて帰ってほしい」と言う。なお、こうした書類で警察に都合のいいことを書かれて罪を着せられるといった話も聞くが、私の場合は逮捕されたわけではないし、もはや事後的で事務的な処理にすぎないのだろう、特におかしなやりとりはなかった。ただ私がいちいち慎重になることで、S氏はちょっと困った顔をしていた。

その供述調書のだいたいの中身。
【私は、1月6日午後3時30分ごろ福井市中央のガレリア通りでいわゆるちかん行為をした、という容疑で取り調べを受けたが、私には身におぼえのないことだ。私がガレリア通りを午後3時40分ごろに通ったのは間違いない。そのときの服装は、緑のハーフコート、紺のボタンシャツ、ベージュのズボン。】

これと平行して、私の肉親が電話で呼びだされてやってきた。そちらも別の書類を書かされた。ざっと眺めたところでは、身柄を引き受けること、呼びだしには応じさせることなどを約束させる文書のようだった。

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ところで、あとから考えて興味深いことが一点。私を福井警察署まで連れてきて最初に取り調べをしたオウヘイ山とコッペ川は、たぶん刑事課の所属だ(1課か2課かは知らない)。しかしそのあとで、担当部署が生活安全課に移ったと思われる。また、私の容疑は「迷惑防止条例違反(いわゆる痴漢)」であるとS氏は言っていた。ここからは私の推測だが、刑事課は、おなじ痴漢でも条例違反ではすまないような事犯を扱う部署なのかもしれない。だから、福井署としては当初、女性への犯行が、たとえば強制わいせつ罪(よく知らないが)などの可能性もあるとみて、まず刑事課が調べたのではないかと思うのだ。しかし、しだいに予想より軽い事犯であると判断したため、容疑を迷惑防止条例違反に切り替え、生活安全課に回すことにした、ということが考えられる。しかし一言付け加えると、女性の尻を触り手をつかみ股間に持ってくるなどという行為は、決して軽い犯罪ではない。たとえば私は、腐れ銀行のキャッシュコーナーを夜中にショベルカーで破壊して現金を拝借していくような行いに、ふと喝采してしまうのだが、それに比べれば、今回のような犯行はよほど卑劣なのだ。

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最後に、こんな糞のような体験をわざわざネットに公開した理由は何だというと、端的にいうなら、私憤であり、公憤である。

刑事課のオウヘイ山とコッペ川のせいで、私の小鳥のようにかよわい心は、いたく傷ついた。胃も傷ついた。

もちろんすでに述べたように、クロかもしれない者に言い逃れさせないためのスキルとして、少々横暴な態度や作戦が有効であることは、私も認める。また、オウヘイ山やコッペ川にしてみれば、こんなの俺たちが毎度やってることだし、ぜんぜん生ぬるいぜと言うかもしれない。それも想像できる。

しかし、それならそれで、そういう警察の普通の現実にさらさられた者が、普通に傷つき怒ることも、同じく普通の現実として、オウヘイ山とコッペ川は認めなければならない。そうでなければ、まったく不公平だ。

だから、もしオウヘイ山とコッペ川がそれを認めるなら、いったん話のカタがついて私が帰る段階で、少なくとも先の非礼を詫びに来るくらいは、ごく普通の筋というものだろう。だが、そのような様子は皆無だった。お出迎えはあったがお見送りはない。

だからこのままでは、私の傷と怒りだけが宙に浮いてしまう。すんだことだと諦めて忘れる人もいるだろう。あるいは、もっと品のある対処、たとえば文書で謝罪を要求するような人もいるだろう。私は今回、文書のやりとりは煩わしく、さりとて、すんだことにもできない。そこでこうしてウェブに書くことで、傷と怒りを少しでも鎮めようとの思いがある。

なお、ちょっと微妙なことを厳密に言っておく。あ、コッペ川は読まなくていいから。私は上に「クロかもしれない者に言い逃れさせないためのスキルとして、少々乱暴な態度や作戦が有効である」と書いた。しかし「そういう横暴な態度や作戦がまったくなしには、司法行政はそもそも成り立たない」とまで主張しているのではない。また、今回の取り調べにおける横暴な態度や作戦のすべてが有効だと感じたのではもちろんない。スキルとして間違っていたり無意味であるようなただの横暴も多々あった。

私は警察を不当に悪く評価しているのだろうか。そうではない。たしかに私は、日本の住民が警察を評価する平均値よりは悪く評価していると思う。しかしそれは平均値のほうが良い評価に傾きすぎているのだ(これについては近々改めて思うところを述べたい)。だいいち、ちょっと考えてみてほしい。私が今回受けたような対応を、仮に区役所や税務署の職員がしたとしたら、どうか。黙って引き下がりはしないだろう。ところが警察だけは怖いから我慢するのだ。いや私がそうなのだ。あるいは犯罪を防ぐためには仕方ないと言い聞かせもするが、それだけでは納得できないことが多く、本当は腹の虫が収まってはいない。だったら言いたい文句は、言おうじゃないか。

また今回の体験は、逮捕や拘留ではないが、取り調べの一例としてお知らせする価値ありと考えた。とくに痴漢のトラブルは最近よく話題になる。いわゆる、あなたもいつこんな目にあうかわからない。先日も冤罪と思われる満員電車内のケースが報道され、なんとなく他人事でない気もしていたが、「でもまさか自分がそんな目には」と思っていた。そしたら、まさか自分がそんな目にあってしまった。

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被害にあった女性に関して。

私は疑われたことであまりに嫌な思いをした。しかし、犯人が私に似ていたことは、私の非ではないのと同じく、彼女の非でもないのだから、どうしようもない。ただし、彼女の視点になって考えてみたとき、首をかしげざるをえないこともある。それは、犯人を見たはずの彼女が、いくら似ているとはいえ同一人物ではない私を、犯人と思い込むようなことが、そうそう起こりえるものだろうか、ということだ。よく考えてほしい。私の服装と顔と年齢と体格、そして犯人の服装と顔と年齢と体格、これらすべてのうちで、同じではないと気づいたところが、ただの一つもなかったということなのだから。言い換えると、私の風体に完全に一致しているかどうかを検証する材料になるはずの、犯人の風体に関する記憶は、どれほどまで確実なものだったのだろうか、ということだ。それらすべてが完全に一致するような人物が、ごく近くに2人出現するというなら、まさにドッペルゲンガーではないか(私が私を見たわけではないのだが)。

――いやもちろん、私が犯人であるとするなら、これらすべての謎は解消する……(墓穴)


Junky
2004.1.10

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