官能小説家

高橋源一郎・多作期について(2)
きょうも元気だ、高源がうまい



近ごろの高橋源一郎はまるで毎日の食事を作るように小説を書いている、としよう。 しかし家の夕飯なんて、あっと驚く創作料理がいつも出てくるわけはない。むしろ定番おかずの組み合わせでいかに凌げるかが腕の見せどころだ。真心込めて手を抜かず。しかし一年365日うすのろな反復の前には、それも何のことだか分からなくなってくる、作るほうも、食べるほうも。

「官能小説家」などは、さしずめ朝日新聞に包まれた弁当箱を開いて「さてきょうのおかずは」「お、これは!」「え、これか」という体験に近かったかもしれない。

そもそも街を歩けばレストランが多すぎる。どれが評判なのか、流行なのか。メニューを読んでいるだけでもう満腹だ。ドレッシングは4種類ございます。どれになさいますか。

しかし、そういう飽食の時代であれ、なんであれ、作家はやっぱり料理を作る。我々はそれを食べる。繰り返し、繰り返し。ときに胃がもたれても、吐いても、なお食べる。食べる。食べる。飽きるほど書く。飽きるほど読む。そういう最果ての胃袋にして初めてたどり着くエクリチュールの境地というものが、あるのではなかろうか。

千年書き続けた人はいない。千年読み続けた人もいない。慣れようが飽きようが、それはせいぜい数十年の話なのだ。「高源幕の内」。私は毎日食べて大丈夫だし、結局いちばん口に合うし、これからもぶつくさ文句を言いながら食べ続けると思います。



Junky
2002.2.21

All about my 高橋源一郎
迷宮旅行社・目次
著作=junky@迷宮旅行社http://www.mayq.net