introduction

「Romantique'96」(ピチカート・ファイブ)

壊れてずっと回り続ける車のカセットには、レンタルCDをダビングしてそのままになっていたピチカートファイブでもかけておこう。
なぜって、これは特定の誰かにあてて作られた歌では絶対ないのだから。もちろん僕のためでも。

ぱっとしない白いセダンの、壊れてしまったカーオーディオが、さして音質のよくないスピーカを、僕の感情など全く意に介さず、元気に鳴らし続ける。
そういう時は、思い出の音楽なんてやめにしよう。吟味して立派な曲を選んでももいけない。安物のテープを特別でなくかけるのだ。

世界でいちばんイカしたバンド、ピチカートファイブは、レディメードのバンド。

もうどうせ、いいのだよ。
流行り歌に
誰の心が宿っているというのさ。
誰のために奏でられるというのさ。
嘘ばっかりの言葉とニセもののメロディーだからうれしくなる。

ピチカートファイブはレディメードのバンド。
やけに悲しい既製品。

こんな文章も既製品。


epilogue


無人島アイテム