小説は千代に八千代に

「君が代は千代に八千代に」(文学界)もこれまでだいたい読んでいます。常に予想のつかない設定、展開です。先月号では本当に「君が代」が出てきたりして、これまた意外でした。**さんが言うように、あの連作は「ひとこと」でいうと何なのでしょう。読み終えるたびに溜め息をついてしまいます。仮に、今号ならその「ひとこと」はラストに「109は素数だ」という形で訪れた、という説明をしてみるならば、連作全体の「ひとこと」もすべてが完結した段階で立ち上がってくるのだ、というつもりで書かれているかもしれないし、私たちもそう読んでいいんだろうとは思います。今月号は「数」に魅せられた少年の話でした。少年はある「数」だけ父親をげんのうで殴って殺します。現実の日本社会で今かなづちで人を殺傷する少年の事件とかがありますが、やっぱりいやでもそのことを反映して読む経験となりましたが、それ以上に私は、高橋源一郎氏が数そのものの奇妙さといったものを今回の作品を綴っていく根拠というかエンジンというかそういう原動力に選んだということに、それほど多くの人が即座に共感できるわけではないだろうが私は即座に共感できる、と思って感動しました。しかもそうでありながら、たとえば阿部公房とかの小説と違って、なんというか頭がそれほど鋭くない人が語っているようなところが、実はいいのかもしれないと思ったりします。


Junky
2000.5.

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