これだけは言わねばと思い立ってペンを執る、こんなイメージが浮かんだからスケッチしておくということは確かによくあるのでしょう。しかし、書いてみて全然違う趣旨になったり、描くうちに全然違う発想が生まれたということは誰もが経験しています。これだけでも、表現が単になにかの写し換えだけではなさそうだと分かってきますね。
表現したい側からも問いを立てましょう。言いたいことが本当にあったとしてそれはそもそも言いたい通りに表現できるのかということです。暗かったわが青春を映画にしたい。愛する気持ちを手紙で伝えたい。それは可能でしょうか。つまり、正解となる映画のシーンや正解となる文面はあるのでしょうか。言いたいことがはっきりしているとすれば、どこかにはっきりした正解があるはずです。しかし、どうもそうは思えない。ということは、ここでも、そもそも言いたいことなんて最初からはっきり存在しているわけではないんだということになります。