先日の話。
仕事を求めてあるオフィスへ面接に行った。
明るく清潔なフロアーにひとり座って順番を待った。
仕切の向こうからはパソコンを叩く音だけが聞こえてくる。
そこへ、ふうっと現れたのは猫だった。
飼っているらしい。
会社でペットを飼えば、社員はなごむし初めての客も間がもつのではないか、と提案した人がいたが、まさにその実現だ。
じいっとこっちを見るので、手招きしたらそろりそろり近づいてきた。
テーブルにも登った。
30分ほどの間に、図書館で借りた柄谷行人の本「終焉をめぐって」の紐が噛み砕かれ、ザックが毛まみれになった。
ようやく社長が現れた。
_やあ。おまたせしちゃって。
_いいえ。
_実はあなたの様子を監視カメラで観察させてもらってたんです。
_は?
_いや、おつきあいさせていただける人かどうか判断するためにね。
社長はニコッと笑ってマスクを取った。
猫だった。 |