「夏の猫」(日向敏文)

奇妙で見知らぬ風景のはずなのになぜか懐かしくてたまらない。響きを耳をした瞬間、そんな不思議な風がにわかに巻き起こり、音の旅人は最後までそこに釘づけになる。曲名にあるごとく「異国」をさまよう「遊牧民」の気分でしょうか。はるか地の果て、地図も国籍もない島にはこんな音楽がきっと似合うことでしょう。とりわけ表題曲の「夏の猫」。遠い海を見渡せる岸壁のBGMとして一日中リピートさせておきたいです。
「夏の猫」は、ドラマのBGMなどで活躍する日向敏文が1986年にリリースした2枚目のアルバム。当時僕はレンタルレコードをこれを借り「求めていたのはまさにこういう音楽だ!」と感激したものでした。 日本的でも西洋的でもない不思議な響き。といってエスニックの辛い刺激はなく、逆に宇宙的というような超越・茫漠の音楽でもありませんでした。
その後デビュー作「サラの犯罪」をすぐに聴いてから「ひとつぶの海」「ストーリー」「アイシス」、ベストアルバム「アナザー・グラフィティー」に続く「ラプソディー・イン・トゥワイライト」まで新作CDをリリースと同時に買い続けました。しかしやはり「夏の猫」が最高です。以降日向敏文は「ええにゅぼ」「東京ラブストーリー」といった仕事の広がりとともにちょっとテレビっぽくというか分かりやす過ぎというか、そうなっていったように僕は感じています。
このころ日向敏文は、9度のテンション(ドレミでいえばレの音)をしばしば和音に組み込み、トニック(ハ長調ならドミソの響き)には決して帰らないコードパターンを転調しながら繰り返し、メロディーもモード的なもの(C-F-G7-Cというような流れとは縁遠く、最後もドの音で終わらないようなたぐいの曲を想像してください)を使っています。とにかく通俗的な盛り上がりや終わり方を極力省いたのでしょう。オリジナル曲を作ろうなんていう場合にはとても勉強になりますね。まあ、こういったことはシンセサイザーに触り出しコードの知恵なんかも少しついてから分かったことですが。


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