脳内冒険劇団

福井市で主に活動している劇団シベリア寒気団の公演「まだ…」を見てきました。
ここの作品はここ十年あまりすべて見ています。いつも大笑いして語りたいことがどんどんわいてきます。しかし今回はちょっと違います。
ここに書くべきぴったりの言葉が浮かんできません。どう対処したらいいのでしょう。もちろん今まで以上に感動しました。しかし感動の質がまた今までのものをはるかに超えているのです。
「放りあげたボールが落ちてこない。受けとめようとして構えた手は行き場を失って呆然としている。」と公演チラシにありましたが、まさにそういうものでした。
たとえば一個のリンゴを誰かが持っていていきなりそれを洗濯機にでもつっこんだような場合、リンゴと洗濯機が結びつく地点がどうにも見えなくて困ってしまいますね。しかしそれと同時に、僕の記憶や思考の遥か辺境にはリンゴと洗濯機とをどうにかこうにか結びつけるルートが実は隠されていて、いったいなんだろうと首をひねっているあいだに、僕の脳細胞はよろよろと旅を続け、うすぼんやりながらその地形がわかってくるのです。そういう無理矢理なにかを見ようとする脳髄冒険旅行の面白さです、この芝居の魅力は。
これはもしかして、最近なにかと考えることが多かった現代美術に近い?
昔、吉田戦車の漫画「伝染るんです」が笑えるかどうかで感性が問われる、なんていう話がありましたが、これもちょっとそういうところがあります。これから見に行く人は心して下さい。

東京や神奈川や埼玉や千葉の方はこの話ちょっとわからないし、見にもいけませんね。わははは。かわいそうに。東京政権によって列島全部が牛耳られ、そのせいで不便不快な思いをしている住人も実はたくさんいるということに気づかず、自分のエリアだけが全世界であると信じて常に澄まし顔の中央人に、たまにはこういう思いをしてもらおう。


Junky
1995.11.19

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