DNA ゲノム 小説 読書
螺旋物語2





DNAは、2本の鎖がらせん状に絡んだ形をしている。それぞれの鎖にまたがるようにして、アデニン・グアニン・チミン・シトシンという4種の塩基がずらりと並んでいる。塩基のさまざまな配列は、それぞれに対応した遺伝情報を担っている。それに従ってまずアミノ酸が作られ、アミノ酸がつながってタンパク質となり、細胞となり、さらに複雑微妙に組み合わされて、やがて人体のすべてが構築される。

本を開くと、中には文字がずらりと並んでいる。文字のさまざまな配列は、それぞれに対応した意味を担っている。それに従ってまず文が作られ、文がつながって段落となり、章となり、さらに複雑微妙に組み合わされて、やがて小説のすべてが構築される。

ヒトのDNAは、この塩基配列すべての読み取りが終わった。ただし、ちゃんとした人体になるために、頭から足先までの器官や組織それぞれにおいて、DNAのどの部分をどのように取捨選択して発現させ、アミノ酸やタンパク質をどのように統合させていくのか。その設計手順を解明していくのは、まだまだこれからである。

では、その設計手順はどこにあるのか。実はそれもまた、DNAの塩基配列に既にすべて刻みこんである。さがすところは他にない。

小説においても、言葉というDNAが、それぞれ意味のアミノ酸を作っていくことは自明だ。ただし、どの言葉をどのように発現させるのか、文章や段落をどのように統合させていくのか、その設計手順がなければ、小説は作動できない。

では、その設計手順はどこにあるのか。これもまた、小説の言葉の配列そのものに、既にすべて書き込まれているのではなかろうか。さがすところは、小説の外にはない。小説の設計手順や作動システムは、その小説の内部に存在する。

もちろん、小説のDNAを発現させる命は、読書である。読書こそが、小説のDNAスイッチをオンにする。素材である言葉だけを使って、複雑微妙な世界が連続形成されていく。設計、作動は自動的に進むことだろう。

だから、黙って読めばよい。
・・・でも、ちっとも発現しない読書がしばしばあって、困りますぅ。

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Junky
2001.1.11

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